Inphi COLORZ でいい感じにディスアグリゲーションWDMがつくれるか検証してみた


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はじめに

こんにちは!ネットワークチームで学生アルバイトをしていたhikaliumです。 2019年の8月から2020年の3月まで週に数日程度、ネットワーク周りの新しい機材やソフトウエアの検証をおこなったり、それに伴うちょっとしたスクリプトを書いたりすることで、新しいものをよりスムーズに導入して使っていくためのお手伝いをさせてもらっていました。

今回はその中でも「世はまさに大WDM時代!」ということで、Inphi社の光伝送ソリューション COLORZ を用いて、より安価に大容量のWDM通信路を構築してみたお話をしてみたいと思います。

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ずらっと並んだInphi COLORZ

WDMってなんぞや

とはいえ、いきなりWDMって言われても何がなんだかわからない方も多くいらっしゃると思います。実際私もアルバイトを始めた当初はそうでした。(実をいうとアルバイトを始める前の私には、光通信ネットワークに関する知識は全くありませんでした。)ということで、まずはWDMについて説明します。

WDMとはWavelength Division Multiplexing, 日本語で言えば「波長分割多重」という方法の略語です。 私たちが日常目にする可視光で考えてもらうと分かりやすいと思うのですが、一般的には光というのは複数の波長(可視光で言えば色と同義)が混ざり合ったものです。そして、プリズムのような素子を使うことで、その光を波長ごとに分けて取り出したり、逆に一筋の光に混ぜたりできます。

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プリズムによる分光の例(Wikimediaより)

一方で、通信で使う「光」は、レーザーを使用しています。レーザーは通常の蛍光灯などから出る光とは異なり、ほぼ単一の、特定の波長の光から構成されています。そして、その光の強弱によって信号を表現して通信を実現する手法が光通信です。(下の画像はレーザーのイメージ図ですが、実際の通信で使う光は波長が可視光の範囲外なので、画像のようには目に見えません…でも波長が違うだけで、性質は変わりません。)

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レーザーの例(Wikimediaより)

さて、光通信で機器同士を繋ぐ場合はおなじみのUTPケーブルではなく、光ファイバケーブルを用いることは皆さんご存知だとは思いますが、ここまで説明した光の性質を用いると、ふつうのLANケーブルではできない面白いことができます。なんと、一本のケーブルの中に複数の通信を通すことができるのです。これが、WDMの基本的なしくみです。

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WDMの大まかな仕組み

なんでWDMなのか

すごく距離の離れた場所の間に通信路を確保する方法には、他にも通信会社の専用線サービスを使うという手法があります。この方法なら、上の図でいう「長いファイバ」のところやその周辺を通信会社がよしなに準備・運用してくれるので、楽だし便利なのですが、その分費用がとても高くなります。 一方、自社でWDMを準備すれば、通信路自体は通信会社から借りるダークファイバーを使うとしても、ダークファイバーは通信会社の使っていない余った通信線をそのまま貸してくれるサービスなので、通信会社が運用の面倒をみてくれない分、借りる費用は安くて済みますし、WDMでめちゃくちゃ波長を多重化すれば1本の線で超大容量の通信路を構築することができます。もちろん、運用やWDMの調整などは自分たちでやらなければいけませんが、それを考えても全体的な費用を抑えられるわけです。 というわけで、大きなトラフィックを扱うような会社の一部は、WDMを使っていい感じに費用を抑えつつ、長距離かつ大容量の通信路を確保しているのです。

もっと安くならないかな → Inphi COLORZを使ったディスアグリゲーションWDM

とはいえ、ここまでは既に多くの企業が採用している、ごくあたりまえの話を説明したにすぎません。今回学生アルバイトの私たちに課せられた課題は、この低価格化をもう一歩押し進めるために、新しいものを導入して評価を行うことでした。その「新しいもの」というのが、Inphi社の光伝送ソリューション COLORZ です。

このCOLORZはどういったものかというと、簡単に言えば「WDMの一部の機能を直接スイッチに刺さるようにしてみました!」というものです。

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Inphi COLORZ

見た目は単なるQSFPのトランシーバですが、通常のトランシーバとは異なり、これ同士を直接WDMを介して長距離の通信路に接続するのが特徴です。そのため、WDMの規格で定まっている波長(チャネル)ごとに、それぞれ対応するCOLORZがラインナップされています。(右下の28というのがチャンネル番号で、他の番号のCOLORZもたくさんある。)

これを使うと何がうれしいのかというと、WDMのディスアグリゲーション(非集約)化を進めることができ、結果として全体的なコストを下げることができるのです。

WDM装置は従来、短距離用のトランシーバが出す波長と長距離用の波長を変換するトランスポンダ、長距離用の波長を合波・分波するマルチプレクサ(先ほどの可視光の例でいうプリズム)、長距離を飛ばすために光の強さを調節するアンプなどが全て1セットになったものが主流でした。

しかし、COLORZのように、WDMの構成要素を別々の会社が作るようになれば、WDMの構成要素すべてをひとつのメーカーでそろえる必要がなく、それぞれの単価も低く抑えられ、また競争も活発になるため、オールインワンのWDM装置しかなかったときに比べて、より安価にWDMを構築することができるのです。

検証その1: 近い距離でやってみる

というわけで、より安価なWDMを実現させるべく、私を含めアルバイト3人は、まずCOLORZと、汎用的なWDM装置をつかって、とりあえずはリンクアップさせようというミッションを与えられたのでした。最初は実験室に対向の機器たちを並べて、近い距離でうまく動かせるかどうかを試しました。

とはいえ私たちアルバイトは、WDMどころか光ネットワーク初心者です。まだQSFPの抜き差しすらやったことがないレベルのところから、機材のマニュアルを読んだり、チームのみなさんや、時にはベンダーの方とやりとりをしながら、試行錯誤をしつつ結線をしたり、設定を手探りで進めていきました。

とりあえずリンクアップさせるためには、各トランシーバに適切な強度の信号が入っていないとダメだということがわかったので、複数あるアンプのゲインを調節してみたり、長距離のファイバを模擬した可変アッテネータの値を調節してみたりと、色々やってみて、とりあえず1チャンネルをリンクアップさせることに成功しました!

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1対のCOLORZがWDM越しにリンクアップした瞬間の図

検証その2: 実際にダークファイバーをつかってみる

その後、他のチャンネルのCOLORZも追加してちょっとパラメータを調節したら、複数のチャンネルでもリンクアップすることがわかったので、次は通信路の減衰を模擬していた可変アッテネーターを、実際のデータセンターまで伸びているダークファイバーにつないでみて、折り返しでリンクアップできるかどうかを試してみました。

しかし、ここからが大変でした。というのも、各トランシーバに十分な強度の光が来ているのにもかかわらず、なぜかリンクアップしないのです!

なんでそんなことが起きるのか、試行錯誤したり、同時にインターネットに転がっている資料を眺めて光通信の基礎を勉強したり、スペアナで実際の波形を確認してみたりした結果、どうやらこれは波長分散の影響なのでは?というところに思い至りました。

波長分散というのは、光ファイバの素材の影響で、波長ごとに光の進む道のりが異なる結果発生する、到達時間のずれを指します。光の速度は波長にかかわらず一定ですが、光ファイバの中で光は反射を繰り返して進むため、波長によって反射角が異なる結果、光の進む道のりの長さに差が生まれるというわけです。1対のトランシーバは、ある程度の幅の周波数の光を用いて通信を行うため、各波長で到達時間がずれると通信できなくなってしまうのです。

これを解決するためには、分散補償ファイバというものを通信路に挟み込む必要があります。実際に入れてみたところ、ついにリンクアップしました。なるほど!

検証その3: 実際にDCと実験室の間をつないでみる

ということで、どうやら動きそうな予感です。では今度は折り返しではなく、実際に対向の装置をそれぞれ別の場所に設置して通信させてみましょう。ということで、片方のWDMやスイッチ一式をデータセンターに移動させます。実際にデータセンターに行って設置作業もしてきました。

機器の場所が変われば減衰などの特性が変化するため、再度パラメータを調整し直してみると…

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8チャンネルリンクアップした!

無事リンクアップしました!それも8チャンネル!1本あたり100Gbpsなので、全部LAGを組めば800Gbpsですね。強い!(実際にテスタを介してパケットを通しながら、何本かトランシーバを抜き差ししてリンクダウンさせてみて、確かに帯域が落ちるねーなどと遊んでみたりしました。)

そのあと

私たちの検証を受けて、チームの皆様がさらに検証と導入を進めた結果、日本の会社では初のCOLORZ導入例としてプレスリリースになりました。(日本語版Inphi社による英語版)わーい!

まとめ

アルバイトを始めた当初は、WDMどころか「トランシーバーってなんですか?あの無線で通話するやつじゃないのはわかりますが…」というレベルの知識だった私でも、他の学生アルバイトメンバーやチームの皆さんに教えていただいたり、試行錯誤していたら、いつの間にかWDMをリンクアップさせられるようになっていました。一緒にWDMに取り組んでくれたryotoさんとkineさん、そしてネットワークチームの皆さん、ありがとうございました。

今回の記事では、私がアルバイト期間に行った検証作業の半分程度しか紹介できませんでしたが、他にも会社全体やネットワークチームでは色々と面白いことをやっています。目標を実現するための方法についてはかなり自由度が高いので、もし興味のある方がいらっしゃったら、ぜひ応募してみてください!