はじめに
はじめまして、Integrated Data Service部の塚本です。
本記事は、2020-03-27に開催された『SmartCity研究所 研究発表会 #1』で発表した『BIプラットフォームで作る管理会計システム』の発表資料とその補足情報を掲載したものです。
発表資料
発表資料の補足
発表は『BIプラットフォームで作る管理会計システム』と銘打っていますが、厳密には、管理会計の中の原価計算における配賦機能の一部をBIプラットフォーム Tableauで実装した話になっています。弊社でもERPシステム(会計システムや工数管理システムなど)を導入しており、これら全てをTableauで置き換えることは到底できません。
では、私達が取り組んでいる問題の本質は一体何なのでしょうか。それは、昨今のモノビジネスからコトビジネスへの転換が関係しています。
モノビジネスでは、基本的に商品を企画・製造し、それを売り切れば終わりという短いサイクルでビジネスを考えることができました。ヒト・モノ・カネというリソースが、どの商品の企画・製造・販売に投入されているかさえわかれば、原価を簡単に計算できました。既存のERPシステムはモノビジネスにおけるリソース管理や原価計算処理については非常に便利で有用なものです。
対して、コトビジネスは、モノでなく体験にかかった原価を計算しなければなりません。
コトビジネスの代表的なビジネスモデルとして、サブスクリプションサービスがあります。KADOKAWAグループでも、書籍やアニメのサブスクリプションサービスを提供しています。
これまでのモノビジネスであれば、原価200円の書籍を600円で売り上げられれば、粗利は1冊あたり400円で…ということが非常にシンプルに考えられました(※あくまで例であり実際の数値と異なります)。
しかし、サブスクリプションサービスの場合は、そんなシンプルな話で考えられません。サブスクリプションサービスの原価は、そのサービス運営にかかっているリソースの総額に見えます。しかし、生産したコンテンツの価値は将来に渡って蓄積される可能性があります。上述の読み放題サービスで提供する書籍を1冊作るのに100万円かかったとしても、その書籍はサービス終了まで顧客に価値を提供し続け、貢献し続ける可能性があります。しかしながら、その書籍が1万点以上あるアイテムの中で顧客にどれだけ貢献しているかはどうやって測ればいいのでしょうか。お客様から頂いた760円のうち何円分に相当するのでしょうか。
そういったコトビジネスにおける原価計算をしようとすれば、サービスを深く知る責任者が、顧客の行動ログなどから複合的に体験への貢献度を推定する他ありません。そうなれば、原価計算のために必要なデータはERPシステム以外の様々なシステムから収集する必要がでてきます。つまり、発表資料にある通り、既存のERPシステムだけでは、管理会計を完結することが困難になるわけです。
コトビジネスにおいては、体験の原価計算が難しいこともさることながら、売上もLTV (Life Time Value: 顧客生涯価値)で考えなければ整合性がとれなくなります。1人の顧客から得られる売上は、これまでと違い、顧客ロイヤリティに応じて可変になります。コトに貢献するコンテンツと顧客両方の将来に渡っての価値を計算できるような管理会計が必要になるわけです。
ビッグデータ・AIのブームも、このようなモノビジネスからコトビジネスへの転換に後押しされているところが大きいと感じます。上述の価値の計算をするためには、様々なデータが必要になりますし、将来をより正しく予測できる必要もでてきます。私達が管理会計システムをBIプラットフォームで作ることになったのも、そういった意味では自然な流れのように思われます。
おわりに
私は、管理会計については全くの門外漢でしたが、逆に会計という分野の外からきたことで、サービス化の流れの中で管理会計が直面している課題に正面からぶつかることができたように思います。
発表資料にある通り、理想に至るまでには様々な障壁が存在しますが、その障壁を乗り越えるためのノウハウが蓄積されましたら、また追って発信していきたいと思います。