
はじめに
データマネジメント部の本田です。
本記事ではKADOKAWAがIP(知的財産)単位での収支分析を実現するために構築しているIPマスタについて、その作成背景や活用状況についてご紹介します。
このプロジェクトはKADOKAWAとドワンゴのメンバーが共同で進めています。本記事の執筆にあたっては、システム開発を担当するドワンゴの田部さんやドメイン知識を活かして分類ルールの整備・運用を担当しているKADOKAWAの齋藤さんにも協力いただきました。
メディアミックス戦略について
KADOKAWAグループでは、メディアミックス戦略を軸に多様な商品展開を行っています。

©長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会
©長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活1製作委員会
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©長月達平・株式会社KADOKAWA刊 ©KADOKAWA/Akatsuki Inc.
©長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会 ©DAITO GIKEN,INC.
個々の商品を管理するための「アイテムマスタ」は整備されており、アイテム単位での売上・原価・利益の把握は可能でした。 しかし、商品単位の収支は把握できても「IP全体」での収益構造を見通すことが難しいという課題がありました。
この課題を解決し、IP単位での横断的な分析を可能にするためにスタートしたのが「IPマスタ」の構築です。
IPマスタとは
IPマスタとは、個々の商品をIPごとにグルーピングするためのマスタです。
既存のアイテムマスタでは、商品種別ごとに別部署が担当しているため同じIPでも情報が分断されていました。 これをIPマスタチームが統合してマスタ化することで、組織を横断したIP全体の収支分析を可能にしています。
IPの分類は機械的な処理だけでなく、人の目によるチェックを前提とした体制(アルバイトチーム)で運用しています。
データ管理のための課題と解決策
IPという概念は抽象度が高く、管理には以下のような課題がありました。
- IPは作品と共に成長するため、アイテム登録時に商品企画担当者がIP情報まで入力することが難しく、定期的な見直しも必要
- 部署や商品特性ごとにアイテムマスタへの登録ルールが異なり、「商品名のばらつき」や「キャラ名のみの登録」などから単純な名寄せが出来ない
これらの課題に対し、私たちは中央集権的なマスタ管理チームと、人の目による精緻なチェックを組み合わせることで解決を図りました。
チーム立ち上げと分類ルールの整備
IPマスタチームは毎日アイテムマスタに登録された新商品をチェックし、グルーピングしています。 社内情報だけでなく、Web情報も活かしながらどんな物語に連なる商品なのかを判断しIP情報を入力しています。
データ整備は主要商品である「書籍」ジャンルから着手しましたが、現在は版権管理や読者非販売商品などを含めた全商品に対する分類を行っています。 複雑な例外パターンをドキュメント化し、ナレッジを蓄積することで、メンバーの交代にも柔軟に対応できる体制を構築しています。
ツール開発の歩み
当初はスピードを優先し、スプレッドシートでの運用としていました。しかし、KADOKAWAのアイテムマスタは100万件を超えており、対象商品数が増えるにつれ限界が訪れました。
そこで開発したのが、「入力支援ツール」という専用ツールです。
このツールは既存アイテムマスタと連携し自動的にデータ更新されるだけでなく、IP分類に特化した検索補助や入力補助機能を兼ね備えており、手作業が多くなる分類作業を効率化しています。
専用ツールの導入により、100万件以上の既存商品の分類を完遂しただけでなく、毎月約1万件ほど増加する新規アイテムを翌営業日以内に分類完了させるという、高いスループットを実現しています。
現在もアルバイトチームによる目視チェックを意識しつつも、自動分類機能を搭載するなど入力支援ツールを継続的に改善しています。
IPマスタの活用事例
IPの付与された商品の情報は、BIダッシュボードや決算説明資料などで様々な分析に活用されています。

IPマスタが構築されたことで「○○シリーズ」といった大きな粒度での集計が容易になりました。
IPは事業を横断して利用されるため、IPマスタを使った分析も事業を横断した分析プロジェクトとして取り組む必要があります。 そして、こうした横断的な取り組みを進めるには経営層の理解と後押しが不可欠です。
決算説明資料での活用や、全社的な収支分析ダッシュボード・マーケティングダッシュボードへの活用を主軸として進めたことでこの取り組みをここまで拡大出来たように感じています。
今後の展望
現在挑戦していることは「多階層化」です。
続編・スピンオフ・外伝などが次々に登場するため、IP構造を確定することは難しく流動的です。 また、コラボIPや複雑な原作ルーツを持つIPなども存在するため、グループ化されたIP名だけではより細かな分析に対応できないケースが発生してきています。
今後はこのような情報にも対応し、より戦略的なデータ活用を支える基盤へと進化させていきたいと考えています。
まとめ
IPマスタの整備は単なるデータベース作成ではなく、会社全体のメディアミックス戦略を支える情報基盤づくりです。
複雑な商品群を「IP」という軸でつなぐことで、経営判断・マーケティング・企画立案の精度を高めていくことができると考えています。
これからも、企業や部署の垣根を越えたIP活用の最大化を目指し、情報の精度を磨き続けていきます。