KADOKAWA社内で、Python活用によるデータ分析が自然に普及していくデジタル講習会を実施した話


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KADOKAWA Connected IDS部コンサルティングの木村です。

この記事では、IDS部が、KADOKAWA社内でデータリテラシー向上を目指す事業部に向けてデジタル講習会を実施したこと(2021年冬期、および2022年冬期の2回実施)についてのお話をします。

この記事を通して伝えたいこと:

  • KADOKAWA社内で100人前後の規模でデジタル講習会が実施されるまでの背景&目的について
  • 理想とする講習会と実際の講習会を比較し、良かったこと&改善すべきこと(工夫したこと&難しかったこと)とは?
  • 予測外の展開(ポジティブ面)と継続学習サイクルを主眼とした次ステップについて

そもそも、どのようなデジタル講習会だったのか?

まず具体的に、どのようなデジタル講習会を実施したのかをお伝えします。

講義内容について:

IDS部では、ユーザー部門の方々が自身でデータ分析できるようにするデータリテラシートレーニングサービスを提供しています。その中の一つに、Python Hands-On(PHO)研修があります。PHO研修では、統計の基礎知識を学ぶための「座学コース」と、そこで学んだ基礎知識を分析業務に展開できるように実務データをPythonを使って分析してみる「実践コース」から構成されます。

  • 座学コース(復習回を含む8回コース)
  • PHO実践コース(復習回を含む8回コース)

データリテラシープログラムの一例:下記添付

実施期間について:

  • 講習1回目:2020年12月~2021年3月末(約4カ月)
  • 講習2回目:2021年12月~2022年4月末(4-5カ月)

実施時間等について:

  • 週一回実施:木曜日PM18:00-19:00(講習時間は1時間+質疑応答)

参加登録者および実際の参加者人数について:

  • 1回目の参加登録者は66名・講義参加者数は50-55人
  • 2回目の参加登録者は102名・講義参加者数は85-90人

では、ここからは

  1. 講習会に至るまでの背景&目的について
  2. 受講者が満足する講習会とは?実際はどうだったのか?
  3. 受講者が満足する講習会とは?意識して工夫していること
  4. 苦労した事について
  5. 予想外の展開について(ポジティブ面)
  6. 次のステップとして

の順番で少し細部のお話をしていきます。

①講習会に至るまでの背景&目的について

同講習会を実施するにあたり、一番大きなトリガーになったのは、やはり上層部のデジタル学習に向けた強い意欲だったと思っています。実施前のヒアリングでお聞きした上層部のコメントをまとめると以下の通りです。

  • KADOKAWAのようなエンターテインメントを提供する側は、心に響く作品創出、編集作業、出版作業全体を含めた業務効率化、宣伝を含めた顧客アプローチ、と様々なフローの細部にまでアンテナを張る必要がある。それを論理的に解決するためには、メンバー全体の幅広い統計知識の習得が欠かせない。
  • 作品情報、顧客情報データが膨大する状況下、Excelで扱えるサイズを超えたデータ分析および、Google Anlyticsで扱える指標以外の分析軸によるデータ分析を行うために、Pythonのようなプログラミング言語を活用したデータ分析をしていく必要がある。
  • 将来的には機械学習を活用したシステムの導入も検討したい。そのためにも今、機械学習の知識を習得する必要がある。
  • 将来、受講者の統計知識が高まり、かつ意欲的に継続学習が取り組める第一歩としての講習会が望ましい。

②受講者が満足する講習会とは?

そもそも受講者がもっと深く学びたくなるような満足できる講習会とはどう作られていくのか?

私自身が考えているその条件は、主として以下のとおりです。

①まず受講者本人が、今(目の前)の講習内容を面白いと思えること

②関心と同時に、日常業務の中でココは自分でもトライ出来るかも?と思える分析イメージ持てる&増えていくこと

③まわり人から良い刺激を得られる雰囲気、環境があること、だと思っています。

 

では、実際の講習会はどうだったのか、結果を先に共有すると以下のようになりました。

①について:受講者がどの程度満足しているか、楽しいと感じていたかを全て正確に把握することはできません。しかし、講習会後にアンケート調査を実施しており、そのスコア結果(5段階評価)を見る限りでは、平均して4.0以上の回答であり、概ね満足して頂けたのではないかと考えています。また、受講者の参加率(当日の受講者数/登録者数)も安定して80%以上になっていることから、ある程度の関心は持ち続けてた上での受講参加をして頂いたのではないか、と推測しています。

ただし、初学者にとっては少し内容が難しいコースがあるため、満足度&理解度については、内容によって若干良し悪しが分かれる結果となっており、全てが満足という訳ではないことも受け止めています。

②について:この件も、全受講者の声を聴くことはできませんが、受講後に質疑応答の時間を設けており、可能な限り丁寧に対応させて頂きました。またそれ以外にも、受講者15人程度に対して別途15-30分ほどのヒアリング調査をさせて頂き、理解度の把握や今後トライしたいことなどを聞いていました。その受講者との意見交換の中で、「現在〇〇のデータ、課題があります。先日説明を頂いた△△の分析手法でトライしたいと考えているのですが」といった具体的な質問が多かったため、一定数の受講者には具体的なイメージが持てていることは確認できました。

③について:基本、オンラインでの講習会では、私から直接、参加者に対して「顔出し」をお願いすることはありません。ただ今回は、5~8人のメンバーが常時、自主的に顔を出すことを選択し、その意欲満々な姿勢・真剣な表情がスクリーン映り出される状態を生み出してくれていました。人間は、他人の表情、特に真剣な目から大きな刺激を受ける、感情が伝わると言われており、このような雰囲気が自然体で作られたことは、とてもラッキーであり、今でもそのメンバーには感謝したい気持ちです。

概ね期待した講習会を行うことができたと思います。ここから先は、そのような講習会ができた理由について紹介してみたいと思います。

③実際の講習会で工夫していること

講習会の大きな目的の1つは、受講者の多くがPythonによる分析知識、経験を身に付けるられるようにすること、継続学習の意欲が高まるような状況を生み出すこと、です。

それに向けて具体的に工夫していることは以下のとおりです。

  • 可能な限りKADOKAWA(社内)の身近なデータを活用する。例えば、角川映画関連データ、ComicWalkerのお気に入り数、アンケート調査など。
  • 講習を聞くだけではなく、積極参加型の場面を設ける。特に言語解析の講習では「体験型」として自身の自己紹介文(50字前後)をPython利用してwordcloud化することに挑戦してもらう(イメージ図を下記添付)。
  • 初学者には講義内容が難しいため、予定日程の中に最低1-2回の復習回を設け、余裕を持って理解できるようなスケジュールを組む。

wordcloudの例:木村の自己紹介文をベースに作成

また講習会において、話す側と聞く側の関係が「一方通行」ではなく、より「双方向」になるように実際に行っていることは以下のとおりです。

  • 挙手ボタンを活用して、理解度の確認を行う。
  • 講習会の最後に簡単なアンケート調査&ヒアリング調査を実施して、スコアだけではなく、受講者の習得度、意見などを聞く&取り入れる。受講者の声はすぐに次回の講習会に盛り込むことを意識する。
  • より積極的でスキルアップを強く希望する受講者に対しては、それが分かった時点から、別途、相談の時間を設けて1on1もしくは、2on1ベースでNEXT STEPを提案する。

④苦労したこと(していること)

  • Meetでの講習会であり大半の受講者の「表情」が確認出来ないため、どうしても全員の理解度の状況把握は難しい。
  • 受講者が100人超の場合、受講者によって統計分析の知識、経験値の差が生じるため、内容基準を「どこ」にあわせるべきか、でかなり悩んだ/いまだに悩んでいる(特に座学コース)。

⑤予想外の展開について(ポジティブ面)

ここでは予想外だったポジティブな展開について3つお話します(全て2回目の講習会にて感じたことです)。

2021年にデジタルビジネスを推進する部署に実施した講習会は1回で終了する予定だったのですが、その部署の責任者から「継続的に学習できるよう(2022年も)もう一度やって欲しい」と声を掛けてもらい、これが2回目実施の始まりの決め手になりました。これが最初のの嬉しい予想外でした。

2つ目の予測外は、講習会の中での良い空気感です。特に2022年の講習会は、現場を見ている社員だけではなく、部長クラスも参加する幅広い参加者構成でした。私自身、一般的な社内講習会では、部長クラスと他メンバーが同時参加して学ぶケースはあまり例のないことだと思っており、想定外のスタートでした。ただ、この構成が良い緊張感を生み出した一因でもあり、同時に、随所に質問が積極的に飛び交う場面があり、これも前向きな良い空気を生み出せた大きな要因だと考えています。

最後3つ目の予想外は、受講する部署の社員の方が自ら細部の調整を志願してくれたバックヤード担当者の存在です。彼らの支援はとても有難く、講習後のアンケート調査実施から、講習内容についての事前アドバイスまで「痒いところに手が届く」かたちでした。そのアドバイスを元に講義内容等を事前に微修正できたことも受講者からの良い返答を頂けた一因だと思っています。

また、元々の主目的であった継続学習を促す空気作りについても、「もっと、こんな分析が出来たら楽しい」と思える内容の1コマを追加して、5カ月にも及んだ講習会を楽しく終えたい、という提案がありました。そこで、既存テーマ以外の「遊び心あり」の内容を追加するかたちで受講者から事前リクエストを募り、その依頼を精査した上で1回限定の追加講習会を実施しました。実際に行ったテーマ内容は、「東京コロナ感染者は予測できるの?」「カッコいい人、美しい人は機械学習でどう判別する?」の2つでした。

前者では、時系列ベースでの深層学習デモを真面目に行い、身近に起こる問題に対する分析方法のイメージを持ってもらいました。一方、後者では、やや笑いあり(Meetなので全受講者の反応が把握できる訳ではありませんが)の顔認識ベースの類似度判別をやりました。KADOKAWA映画「ナミヤ雑貨店(東野圭吾作)」で映画賞を取ったHey Sey Jumpの山田涼介さんと、KADOKAWA Connected社員である木村本人の顔写真での比較を通して「笑いが取れるのか」の実験も行いました。後日、受講者数人から「努力賞」みたいなコメントを頂き、安堵したことをハッキリ記憶しています。

⑥次のステップとして

最後に、私が講習会を通して強く意識してお伝えしているいること2点あります。

まず1点目は、継続学習に繋がる第一歩として、講習会で学んだことは翌日からすぐにでも実践に活かしてほしい、ということです。例えば、座学コース講習会後に相関関係や標準偏差が理解できたと思ったら、翌日、翌週のレポート報告会にその分析を組み入れていく、といった感じです。もちろん、いきなり本番で説明できる自信がない場合は、こちら側がサポートするという条件付きで、敢えて背中を押すかたちで推奨しています。なぜなら、それを繰り返していくうちに本人の自信が付いてくる、湧いてくると考えているからです。これを繰り返せば、それが自分の武器に変わってくるからです。

2点目は、継続学習を通して習熟度が高まっている受講者に対しては、タイミングを測りながらも、初学者の立場になってどのように説明したら理解してもらえるのか一緒に考えましょう、という時間も作るようにしています。その理由は、その「学んだ人」が、次のステージでは「伝える人(講師側)」になって欲しいと強く考えているからです。過去2回の講習会を通して、社内には、年齢、性別に関係なく、すでに教える立場としても相応しいと考えられる候補者が多数名存在していることに気が付きました。その人達が「次」の新しい学びサイクルを作り出してくれる可能性は大きいと思っています。

人間は、やる気に満ち溢れていたり、自分の話に共感してもらったり、目標達成をチームで共有できたりすると、ドーパミンというのをたくさん分泌します。それは、1人よりも2人、2人よりも3人、といったかたちで効果を発揮するものです。

講習会を1つのきっかけとして、もっと多くの人の学び心に火が付いて、その楽しさやドーパミンが伝播して、さらに伝える楽しさが浸透していくと、どこかのタイミングで、KADOKAWAっていい会社だよね、に繋がるんだろうな、と日々考えています。

社内にこのような「次」がもっともっと生み出せるように、私自身、これからも前向きに頑張っていきたいと考えています。