KADOKAWA Connected / ドワンゴの @saka1 です。
この記事では、しばらく前に開催した「AIによる画像生成勉強会」について紹介します……といっても勉強会のセッション内容にはあまり触れません。勉強会をどう開催したかや、開催した結果どうであったかなど、勉強会の裏側部分を中心に紹介します。
わざわざ紹介するのは、この勉強会は筆者の経験のない開催形態だったからです。
- KADOKAWAグループ全体から参加者を募りました。Webエンジニアと書籍編集者と人事部の人が集まるような、かつてない、職種の垣根を超えた会となりました
- Slackでの募集を行うなど、かなり珍しい開催形態になりました。
つまり、IT分野でよく見られる有志が自然と行う勉強会よりは、やや大規模で手間のかかるものになりました。筆者は色々な勉強会に出たことがあるつもりでしたが、準備に意外と手間取った部分もあるので、その辺りの経験についても触れていきます。
実施した事後アンケート等から読み取れる反省点なども一部紹介したいと思います。
※この勉強会は、昨今話題になっている画像生成AIについて理解を深めるために行なったもので、今すぐに、KADOKAWAグループがコンテンツ制作に画像生成AIを使おうとしているから勉強会を開催した、ということではありません。日頃お世話になっている作家の方々と良好なコンテンツ制作を今後も行えるよう、より正確な知識をグループ内でインプットしていただけることを期待し開催しました。
なぜ勉強会をやろうと思ったのか
当時のSNSでは画像生成AIが一種のブーム1になっていました。国内で話題が爆発的に広まったのは2022年の8月頃だったと思います。
Stable diffusionなどの画像生成AIの内部では、拡散モデルやCLIPといった要素技術が使われているらしいと耳にしました。しかし筆者は機械学習エンジニアではないので、その技術的詳細は知らないままでした。いつか学習の機会を作れるといいなーと考えていました。
ところで、筆者はドワンゴに所属しつつKADOKAWA Connectedのお仕事をする立場なのですが、ちょっと周りを見渡してみると
- 画像生成AIはKADOKAWA Connected社内でも話題でした。ドワンゴでも話題でした。ということは関心も持ってる人は非常に多そうでした
- ドワンゴには、マルチメディア系の機械学習プロダクトを数多く手掛けるチーム(ドワンゴ・メディア・ビレッジ)がありました
- KADOKAWA Connectedのデータ組織にも機械学習エンジニアがいました
つまり「知りたい人」「詳しい人」がいるような状況がありました。
この状況を上手く使って勉強会を開催すれば、僕が勉強できるしハッピーな人もたくさん生まれるはずだ!! 最高では!? と思いついたのを覚えています。
勉強会の企画と準備
まずやることは企画を通すことだった
どんな勉強会であっても、開催までの流れはおおむね決まっているかと思います。
- 発表者を集めるとともに、日程・セッション内容を固める
- 勉強会の募集ページを作って公開し、宣伝する
- 当日の運営をする
- 片付け(アンケートの回収など)
ただし、有志が行う勉強会とは異なり、複数の会社のエンジニアたちに稼働してもらう(ために各所のえらい人を説得する)必要がありました。厳密に言うと人件費もかかります。
今回はもろもろの稼働を正攻法でもらうために上司を巻き込むことにしようと、こんな企画書を書いて、提案しました。
その結果「いいじゃん」となったので関係各所と具体的な打ち合わせをすることになりました。
テーマ設定はどうしよう?
「画像生成AIについての勉強会をする」と決めたとしても、具体的なセッション内容は要検討でした。
- 誰に向けての勉強会とするか?
- 何個のセッションを、それぞれどういうテーマで発表してもらうか?
- 発表者は誰か?
誰に向けての勉強会かですが、今回は話題性のあるテーマを扱うこともあり、幅広くKADOKAWAグループ全体から参加者を募ることにしました。すなわち、ITエンジニアだけでなく、KADOKAWAグループのSlackにアカウントがある、少なくとも数千人の多様な職種の人達に参加を呼びかけることになります。会ったことがないどころか名前も知らない人がほとんどです。
広範囲に参加を募る以上、参加者の関心事とセッション内容のミスマッチが最大の懸念でした。
つまり、AIの技術的な詳細を知りたいエンジニアがいる一方で、そもそも機械学習についてさえ詳しくない参加希望者もいるはずだと想像できました。そうだとすると、例えば数式や具体的なコードを前提にした(いわゆるdeep diveな)セッションがあったとき、後者の人は取り残されてしまうと懸念されました。
懸念に対して今回採用した対策は、入門編・発展編でセッションを分割することです。
- 入門編・発展編と題してセッションを2部構成にし、参加申し込み時に視聴を希望するセッションを選べるようにしました
- 勉強会の案内文でも「このセッションは入門者向けで簡単そう」「このセッションは高度な内容を扱うため難しそう」という雰囲気が伝わるように、文面などを調整してもらいました
この方針のもと、発表者の人選を加味して入門セッション2つと発展セッション1つを設定することにしました。
発表者を集める点についてはあまりノウハウ的なものはなく、「あの部署のあの人は詳しそうだなー」と当たりをつけて直接声掛けをしました2(正確には上司に調整をお願いしました)。
参加人数が不明すぎる問題
募集範囲が広すぎるせいで、参加登録してくれる人が何人いるか不明という問題もありました。あまりに参加者が少なすぎたり多すぎたりすると不都合がありそうなものですが、リスクとしては比較的低いと予想していました。
- オンライン開催で物理的なキャパシティを考える必要がなかったので、参加者が多すぎる分にはそれほど問題にならない
- 参加者が少なすぎると勉強会の意義が薄まるし発表者の方に申し訳ない。とはいえ、自分の部署やその周辺だけで20人は来るだろう
- それなら勉強会として成立するはずだ
つまり、この部分で失敗する可能性は低いと考えました。ふたを開けてみると200人以上の参加があったので、オンライン開催で本当に良かったです……。
丁寧な宣伝
勉強会の情報がうまく伝わらなければ、関心を持っている人達も参加してくれないはずです。今回は同じグループの従業員とはいえ知らない人達へのアナウンスになるので、丁寧な告知が必要だと考え「チラシ」に相当するPDFを作ってSlackに投稿することにしました。
KADOKAWAグループのSlackには全体連絡用のチャンネルがあるので、このPDFを投げ込むことにしました。たくさんreactionが返ってきて手応えを感じたのを覚えています。
企画と準備についてのまとめ
ここまでで、大まかではありますが勉強会の立ち上げについて紹介しました。
改めて確認してみると、特に中心にあった考え方は、リスク評価とそれに対する対処でした。
リスク | 対応 |
---|---|
セッション内容が難しすぎたり簡単すぎたり等、セッション内容と参加者の期待がズレる。 | 勉強会を入門編と発展編の2部構成に分割する。また、セッション内容について手厚く説明・宣伝する。 |
参加者が少なすぎたり、多すぎたりする。 | 身近な部署で来そうな人数を最低限見積もっておく。多い分にはオンライン開催なので吸収できる。 |
企画からスケジュールを立て、リスクを洗い出して対応策を検討し、実施を推進していく——勉強会開催の際に考えることは、普段やっているソフトウェア開発と似ているのかもしれません。
開催告知後〜当日
開催告知後は事務的な処理が中心でした。
- 参加登録先になっていたGoogleフォームを定期的に確認して、新規登録者がいないか確認
- 当日の勉強会で用いるGoogleカレンダー予定およびGoogle Meetに参加者を順次追加
- 当日の質疑や雑談を行うSlackチャンネルに参加者を順次invite
オンライン勉強会では全てのコミュニケーションをオンラインで完結させる必要があります。コミュニケーション設計についてはグループ各社で標準化されているツール群を駆使し、可能な限りのことを行ったつもりです。
勉強会当日に裏方のやることはあまりなく、簡単な司会進行をする程度でした。各発表者の方には面白い発表をしていただけたと思っています。
開催結果
社内勉強会はおおむね成功と言える結果になりました。
- グループ各社3から参加者200人超と、大盛況でした。日中に2.5時間取る開催形態にもかかわらず、本当に多くの方に参加いただけました
- 事後アンケートの結果も期待以上に良好でした
- 入門編も開催したことで、人事や編集の方たちなど、非エンジニアにも喜んでもらえる結果となったようです
運営では要改善の箇所もありました。社内で前例がなかったのでこなれていなかった面はあると思います。もし次回開催があるとしたら改善を狙いたいと思っています。
- 当日の発表映像をアーカイブして参加者の方に共有する辺りの作業に手間取ってしまった
- リハーサルが不十分だったかもしれない?
- 参加登録をGoogleフォームで受け付け、参加者をGoogleカレンダー予定に入れ専用のSlackチャンネルに招待する運用をしていたが、人数が多くまた参加者は散発的に増えるため、作業の負担が思いのほか大きかった
参加者募集期間はギリギリまで取ったほうがいいかもしれない?
勉強会の告知から開催日までは、約2週間ありました。直前まで参加登録できるように参加登録期限は切っていません。参加者がいつ登録したかについて、横軸は時間、縦軸は全体に対する割合を積み上げたグラフを示します。
グラフからはこんなことが読み取れます。
- 勉強会の告知(Slack投稿)から1日ほどで全体の6割ほどが参加登録している
- それ以降は登録数が緩やかに伸びている
- 前日〜当日ごろの直前になってから、参加登録の伸びがある
告知直後に多数の登録があるのは自然だと思いますが、逆に言うと3割ぐらいの人は公開から日にちが経ってから参加すると決めたようです。今回の開催は平日昼間の2.5時間を使うスケジュールだったので、業務との調整が済んだ段階で登録した人が多かったのかもしれません。
1割以上の人が直前に参加登録しているのは興味深い現象だと思います。ドワンゴのSlack等ではtimes(分報)文化が根付いています。timesでの「明日はAI勉強会に参加する」みたいな投稿に宣伝効果があり、釣られて参加しようと思った人達がいたのかもしれません。
理由はさておき、初動の登録だけだと参加してくれるはずの人を取りこぼしてしまいそうな点は注意が必要だなと感じました。
ギリギリまで参加登録期限を延ばしておくと、直前まで参加登録の事務処理が必要だったので、作業が少しだけ大変でした。例えば、Googleフォームへの参加登録時にSlackチャンネルへの招待やGoogleカレンダー予定への登録を済ませるようなスクリプトを書くなど、自動化を考慮したほうがよかったかもしれないです。
開催によって得られたこと
勉強会の主目的はもちろん参加者の勉強になることで、この機会に最新のAI技術について学んでいただける機会は作れたように感じています。アンケートでもポジティブなフィードバックを沢山いただけました。
また、副次的な効果ではありますが、知らない部署の方にも「KADOKAWA ConnectedにはAIに詳しい部署がある」と認知していただくことができたのかもしれません。案件の相談などが新規で来るようにもなりました。
まとめ
この記事では勉強会の裏側について、特にセッションの構成や宣伝等について、どう考えて具体的にどういったものを作ったかを中心に紹介しました。
時事的なテーマについて、エキスパートの知見を素早く勉強会の形に結び付けられたのには、関係各位の協力がありました。もっと言うとKADOKAWA Connectedの立ち位置だからこそ実現しやすかった企画かもしれません。
ちなみに、勉強会の1セッションについてドワンゴのブログ記事になっています。興味のある方はこちらもぜひ参照ください。